3Dデジタイザは非接触&短時間でサンプルの形状データを取得することができるため非常に便利な測定機ではありますが、サンプルが光を反射・吸収するような状態(黒・光沢・透明)である場合、スプレーで表面を白くする必要があります。
こうした3Dスキャン用のスプレーにはいくつかの種類があり、成分や膜のでき方がそれぞれ異なります。

今回のブログでは弊社で所有しております3種類のスプレーについて噴霧により形成された膜の厚みの比較を行い、その違いが何に起因するのかを調査してみたいと思います。

 

使用設備

ワンショット3D形状測定機

■メーカー:㈱キーエンス
■型式:VR-3200
■仕様
・測定精度:高さ±3μm、幅±5μm
・繰り返し精度:高さ0.5μm、幅1μm
・解像度:400万画素

 

 

電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)

■メーカー:日本電子㈱
■型式:JSM-7800F
■仕様
・分解能:0.8nm(15kV)、1.2nm(1kV)
・観察倍率:×25~×1,000,000

 

デジタルマイクロスコープ(CCD)

■メーカー:㈱キーエンス
■型式:VHX-6000
■仕様
・撮影倍率:×20~×2,000
・有効画素数:1,600(H)×1,200(V)
・解像度:200万画素

 

スプレー膜厚調査

調査に使用したスプレー

「酸化チタンセリサイト」…化粧品の原料としても使用。エタノールと混ぜてスプレー。

「探傷検査用現像剤」…部品の探傷検査において現像剤として用いられる白いスプレー。

「昇華タイプスプレー」…噴霧して数十分後には膜が昇華するため測定後の除去が不要。

調査方法

【サンプル】
鉄製ブロック 50×100×40mm

【調査手順】
・手順①:サンプルから150mmの高さでスプレーを噴霧。
・手順②:スプレー回数はエリア①は1往復、エリア②は2往復、エリア③は3往復。
・手順③:ワンショット3D形状測定機を用いて膜の厚みを測定。
・手順④:黄枠で囲った面を基準面(Z=0)としてカラーマップ出力。

スプレー前のカラーマップは以下の通り。

調査結果

酸化チタンセリサイト

・エリア①:1μm以下
・エリア②:1μm以下
・エリア③:1μm以下

 

 

 

 

探傷検査用現像剤

・エリア①:5μm
・エリア②:7μm
・エリア③:18μm

 

 

 

 

昇華タイプスプレー

・エリア①:3μm
・エリア②:5μm
・エリア③:15μm

 

 

 

 

 

膜厚調査の結果、酸化チタンセリサイトは3往復スプレーしても1μm以下の膜厚となっており、測定時に与える誤差は非常に少ないと想定されます。
このようにスプレーの種類によって膜厚に違いが出るのは何に起因しているのでしょうか?まずは粒子のサイズについて調査してみます。

 

粒子サイズ調査

調査方法

【観察装置】FE-SEM・CCD
【サンプル】カーボンテープにスプレーした粒子

調査結果

酸化チタンセリサイト

セリサイトの含有量は80%以上で表面に酸化チタンが付着している状態であったため、粒子サイズとしてはセリサイトの大きさに依存すると思われる。
セリサイトは数μmのサイズがあるが厚みは非常に薄く、何層にも重なって存在していた。


探傷検査用現像剤

元になる粒子は非常に小さいが、それらが固まって数μmサイズの固まりを形成していた。

昇華タイプスプレー

膜が昇華してしまうためデジタルマイクロスコープを使用。粒子自体は数μmのサイズだが、ある程度固まって存在していた。

粒子1個あたりのサイズについてはそれほど違いはありませんでしたが、噴霧された粒子は一粒一粒が散らばって存在しておらず、複数個の粒子が固まり重なった状態で存在していました。
そのため、膜の厚みを決めるのは粒子のサイズではなく、噴霧時の粒子の固まり具合や分散の仕方によるのではないかと考えられますので、次はスプレーの1往復あたりの噴霧ムラについて調査を行ってみました。

 

スプレー噴霧ムラ調査

調査方法

【観察装置】
CCD

【サンプル】
アルミ製平板に高さ 150mmの位置からスプレーを1往復噴霧したサンプル

【スプレーノズルのタイプ】

「酸化チタンセリサイト」
…霧状に噴霧される特殊なスプレーノズル

「探傷検査用現像剤」「昇華タイプスプレー」
…一般的な家庭用スプレーノズル

 

調査結果

酸化チタンセリサイト

探傷検査用現像剤

昇華タイプスプレー

「探傷検査用現像剤」「昇華タイプスプレー」は、噴霧量が多いためきれいに白い膜が形成ようにも見えましたが、拡大観察をしてみますと噴霧された粒が大きく固まって高低差のある凸凹ができているのが確認されました。
一方、「酸化チタンセリサイト」は、霧状に噴霧されるため一見ムラがあるように見えますが、薄い膜が均一にできている状態であるため、噴霧を重ねていっても凹凸はできにくいことが分かりました。

 

まとめ

今回の調査では3Dキャン用スプレーの3種類の中で最も薄く均一に白い膜を形成できたのは「酸化チタンセリサイト」となりましたが、その要因としましては粒子の形状・サイズの他に霧状に細かく噴霧するためのスプレーノズルの役割も大きいことが分かりました。

このように単にサンプルの表面が白くなっていれば良いというものではなく、スプレーの種類と噴霧の仕方によっては3Dスキャンの精度に影響を与える可能性があるため、どのような膜が形成されているのかを正確に把握する必要があります。
当社では3Dスキャンに関するこうした様々なトライアルを通して多くのノウハウを蓄積しておりますので、お客様のご要望に合わせた最適な方法をご提案をさせていただきます。

 

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